やっぱり『やもり通信』

海外生活一区切り。これからは日本の生活メインの内容になりそうだけど、タイトルはやっぱり『やもり通信』・・・で、いいかなっと。

10年早かった・・・?ハラスメント啓蒙イベント@カイロ

 カイロに来て出会ったもの(財産)のひとつにズンバがあります。 
 ズンバ? 

 あのズンバを、あのヒラガマキエがやってるって??

 と、一部の人に思われるのを覚悟で書いてますが・・・

 いや、でもホント楽しいんですよ、ズンバ!

 
 イスラム教が国教のこの国では、普段はどんなに暑くても極端に肌を露出した格好でその辺を歩いたりはしませんし、まだまだ積極的に体を動かす(運動をする)女性が好奇の目で見られることも少なくなかったりもしますが、
 それでもそんなエジプトでもズンバ人口は確実に増えてきているようで、

 最近は「Pink Party」と称した乳がん撲滅キャンペーンのイベントとしてズンバ・パーティが行われたり、
(2012.10.13)


  El-Fit Fitness Festival なるものの中で『ズンバトン(ZUMBA Marathon)』が行われたりと
(2013.2.23@アレキサンドリア)
なかなか積極的かつ飛躍的な活動が展開されているようです。

 今までいつも何かの理由でこれらのイベントに参加できずにいた私ですが、先月末(5月25日)にカイロ郊外のヘリオポリスにあるTriumph Hotelで行われたズンバ・イベントに、初めて参加してみました。

 さて、今回のこのイベントは、

「ハラスメントのない社会を目指そう!」というような、特に“セクハラ”(性的嫌がらせ)をやっつけろ!という目的を持ったイベントでした。


 この趣旨に賛同したから積極的に参加してみた・・・とか、そういうわけではないのですが、
ただ私たちカイロ駐在マダム(「自分たちのことを“マダム”と呼ぶか?」と違和感を覚えられた方、その感覚はもっともだと思いますが、こういう所での生活が長くなると、いつの間にかごく日常的な使用語彙となってしまう場合も少なくない、という現実があります。お許しください。)に「ズンバ」の楽しさを思いっきり教えてくれた我らがインストラクタールリさんが、もうすぐカイロを去ってしまうことになり、彼女と踊ることができる多分これが最後の機会となるだろう・・・という、そっちの理由での参加でした。

 私と同じ目的で(←たぶん)休日の朝早くからはるばるヘリオポリスまで出かけていったズンバ仲間(日本人マダム)は6人。もちろん私たち以外にもインストラクターさん始め相当数の外国人が参加していたとは思いますが、いくつかのズンバ・イベントに参加したことがある人が言うには、今回のこのイベントは非常にローカル色が強い、つまりエジプト人参加者がとても多いイベントとなっていたそうです。

 それだけ「ハラスメント問題」に興味・関心があるエジプト人女性が増えている・・・?
それもあるかもしれませんが、より多くの(地元の)人に参加して欲しいという主催者側の意図があったからか、参加チケット代が25LE(エジプト・ポンド≒360円)とこれまで行われてきたイベントに比べかなりお安くなっていた、というのもその理由のようです。


 「10時開始」とか「10時半からウォーミングアップ」などと言われていたこの日のイベント。
 もちろんそんな時間からは始まらず。
 また12時前くらいには登場する予定だった我らがルリさん(カイロで活躍中のズンバ・インストラクターたちが順番にステージに現れ、彼女たちと一緒にみんなで踊る)も、諸事情により登場時間が最後から2番めとなり、まぁこういう感じは普通のコトですが、このあと私たちは
「ああ、ここはエジプトなんだなぁ・・・」
「私達はエジプトに住んでいる外国人なんだなぁ・・・」ということをしみじみ感じるような体験をしたのでした。


 さて突然ですが、女性の皆さん。
 道を歩いていて見知らぬオトコに「Hey,か〜のじょ」などという感じで声をかけられたら、
それも明らかに“からかい”を含んだような口調で何か言って来られたらどうしますか?

 私は基本、無視します。
 あるいは、
 相手の“態度のレベル”(その人との距離、目つき、口調等で即座に判断)にもよりますが、軽く「Hello」と返してさっさと行き過ぎる、という場合もあります。
 でも、やっぱり無視するのが多いかな?
 そしてここ数日の自己分析の結果、私の場合は、相手に“無視をした”ことがはっきりとわかるように、ではなく
「あら?誰か私になにか言った?でも、よく聞こえなかったから通り過ぎちゃえ。」という感じで、相手の存在に気づかなかったようなふりをしてやり過ごすことが多い、ということが分かってきました。

 あからさまに無視するより、この方が面倒くさいことや必要以上のイライラに発展する可能性が低いような気が私はするのですが・・・・それはまあ、人によるかもしれません。

 
 と、ここまで前置きしてから、再びイベント会場へ・・・。
この日は、順番にステージに上がるインストラクターさんたちと一緒に、フロアで思いっきり楽しく踊った後「それではここで・・・」という感じで司会者がステージに登場し、「セクハラ対処法ワークショップ」のようなものが展開される、という構成になっていました。

 そこでまず参加者の女性たち(このイベントは“ladies only”なので女性しか会場には入れません)に伝えられたことは・・・・

「黙っているだけじゃダメ」ということだったそうです。実はこのイベント、全てアラビア語で行われていたため、私たち日本人マダムにはちんぷんかんぷん。唯一のアラビア語話者(でも日本人)であるOさんの適切なる同時通訳のおかげで、何とか目の前で繰り広げられている出来事のポイントをおさえることができた、私たち日本人マダムでした。


 「黙ってるだけじゃダメ」 つまり
「無視するだけが能じゃない」的な指導がまず第一に。

「これまで私たちは黙って耐えてきた。それに歯向かうような態度をとることは無駄な行為だとされてきた。でも、そうじゃない。私たちがまずNOと言わなければ。あなた達がしている行為は恥ずかしいことなのよ、と相手にはっきりと言ってやりましょう。」

と、自分たち女性の側の意識改革こそが大切である、という主張。


「まず私たちが行動を起こすべき」という意識の高さは、悪いことではないと思います。
「嫌なことは嫌と言いましょう。」という主張も基本的には間違っていないと思います。
そして個人的には、「他人任せにせず、まずは自分から」という考え方も好きです。


でも。

う〜〜〜〜〜ん。

先は長い。


 だって、一部の女性の中にそういう意識が芽生え、その中の一部の人たちが、今まで女性に対していわゆる「セクハラ」と言われる行為を何の気なしに行ってきた人たちに「No」を主張したとしても、その「No」を突きつけられた当人たちはまず「え?コイツ、いったい何言ってんの?」

 目の前の女性の一言で、「そうか・・・自分がしている行為は恥ずかしいことなんだ。」と、ハッと我に返る人なんて・・・まずいないでしょう??

 そんなことを思っていると
「こういうのは小学校に入るくらいの子どもたちにまず教えていかないとダメだと思うよ。」と同時通訳係の友人O。

 小さい頃から・・・「性別違い」というものを知り始める頃からの教育の大切さ。
その辺のことをすっ飛ばして、いきなりズンバなんかを踊っちゃうような、この国では貴重な、でもたぶん少数派のアクティブな女性たちに啓蒙活動をしても、その効果のほどは・・・??

 「でも、なんにもやらないよりはマシだよね。」
 「確かにね。でも、ゼロよりはマシかも、という程度のような気がする。」

 
 未だかつてなかったような画期的な「啓蒙活動」が熱気を帯びて続けられる中、勝手な(でも正直な)感想を言い合う私たち日本人グループの周囲は、他とは明らかに違う空気が漂っていました。

 そして、ついには
「いや、これは10年早いね。」
と、これまでにこの街のあんなこともこんなことも色々見てきた在カイロ歴20年以上(?)の友人Kがバッサリ。

 そこまで突き放した言い方をしなくたって・・・
と思ったけど、でもそれって結局さっきの“小学校に入るくらいの子どもたちから教育を始めるべき論”と同じ事を言っているわけですよね。小さい頃からきちんと教育を受けて、ジェンダー(社会的・文化的性差)についての正しい知識を持った成人男性が存在してくれないと、今、この場で盛り上がっている「啓蒙活動」も“暖簾に腕押し”状態。 

 ここにいる女性たちの意識をそれなりにでも受け止めることができる男性陣が存在するようになるには、今すぐ教育を始めても10年はかかるかも。


 もちろん、私たちが持っている「男女観」、「ジェンダー観」というものが常に100%正しいとは言い切れないでしょう。“私たちが持っている”などといっても、その中身には実は差があったりもするのでしょうし。
そしてこの国の場合、ここに「宗教観」というものが、どうしても絡みついてきます。

 色々考えると本当に難しい問題なので、もうこれ以上踏み込むのはやめておきますが、とにかく


ルリさんとの送別ズンバのつもりで出かけていった私たちはこの日、普段とは違った角度から「エジプトの今」を眺めるという貴重な経験をさせてもらったのでした。


 このイベントが本当に「10年早かった」のかどうかはわかりません。
でも少なくとも、参加した人の多くはたくさんの刺激を受けていたようでしたし、
今回のイベントの様子をビデオで記録して今後の広報活動にも力を入れようとしている主催者側の意気込みも感じられます。



 私たちにズンバの楽しさを教えてくれたルリさんの、カイロでの『ラスト・ステージ』は
 ハラスメントと戦うカイロの女性たちの『最初の一歩を踏み出すためのスタート・ラインが引かれた日』だったのかもしれません。
 

https://www.facebook.com/photo.php?v=10152910363540118
↑↑ Zumba Fitness Instructors Egypt主催のイベント『Igmadi』(Stand Strong Against Sexual Harassment)の記録ビデオ