やっぱり『やもり通信』

海外生活一区切り。これからは日本の生活メインの内容になりそうだけど、タイトルはやっぱり『やもり通信』・・・で、いいかなっと。

あの時の気持ち・・・新大統領誕生の瞬間・・・長かった「2012年6月24日」から一週間

 「選挙結果についての発表は午後3時から」とのことだったので、3時少し前からもちろんテレビをつけました。
テレビの画面は3つに分割され、同時に3種類の映像を見ることが出来るようになっていました。

 ムルシー氏を応援するタハリール広場のものすごい群衆と
 シャフィーク氏を応援する人々が集まっているという場所(名前、忘れました・・・)
 そして発表会場となるのであろう場所。壇上に長机、そしてイス。その前に報道関係者等が座るのであろうイスが並べられ・・・。
でも、この雰囲気、まだまだ始まりそうにない。
 部屋に入ってくる人々、出ていく人々。立って歩いてあっちの方指さしながら誰かに何かを指示しているような人。


 ま、この辺は誰も驚かず(たぶん)。
仮に3時ピッタリに関係者らしき人たちがズンズン壇上に上がって椅子に座り、あっという間に発表を始めてしまったら、それこそかなりビビってしまい、「これこそが新しいエジプトの始まりか!??」くらいに思ったに違いありません。
いやいや、逆に「何か裏がありそうだ・・・アヤシイ。」などと思ってしまったかも。



  それでもそのうちなんとなく発表会場らしき場所の雰囲気が変わってきて、3分割されていた画面が室内会場のみの大写しとなり、向かって左側から何やら書類らしきものを抱えた人たちが連なって入ってきて壇上にのぼり・・・そして席につき。

 う・・・ これはいよいよ始まるらしい、と姿勢を正し、そしてテレビのボリュームをぐぐぐぐぐー・・・っと上げました。

 「うるさぁぁぁーーーい!」と草太。
そうだよ。
うるさいくらいに大きくしないと、あのおじさんたちに聞こえないでしょう??

 
***************

 こんな大事な日に限ってなぜかトイレの排水口が詰まってしまい、「下水逆流・トイレの床水浸し状態」になってしまった我が家。

 昼過ぎに大家に電話をした時に彼女が言った言葉は「今日は大切な日だから、今は誰も外には出たがらないのよ。わかる?」

 ・・・・それって、大統領の発表が終わるまで誰も修理には来てくれないってこと??

 でもね、

 発表の内容次第では、それこそ、排水口の修理どころではない状態になってしまう可能性もあるわけで・・・。
だって、もし・・・、まさかとは思うけど、でももし「シャフィーク」と発表されたら、その瞬間からタハリールがどんなことになるか・・・。いや、タハリール広場だけじゃない。とにかく、かなりヤバイことになる。

 だから我が家は、今朝のうちに銀行から下ろせるだけのお金をおろし、残りのお金も全部日本の銀行への送金手続きを取ってから夫は出勤。昨夜は「万が一また退避(帰国)になった時に持って帰るもの」について夫婦でざっくり話もしておいた。
 そう。そういう意味では、本当に今はまさに“運命の瞬間”を待つ心境。

 エジプト人にとっても駐在外国人にとってもそれはある意味「同じ」状況。

 

 確かにそうなんだけど、でもトイレの床にあふれている水が、このままだと玄関や台所、リビングの方にまで広がって行ってしまう、という状況も、これ、やっぱり放っておかれても困るわけで。

 気を取り直して、再度マダム・オムネイヤ(大家)に電話。
 
 
「今日が大切な日だということはわかっています。でも、いいんですか? このままだと家中にトイレの水が流れ出しますよ。」

 
 そんなやり取りがあって、ようやくこのアパートの用務係のような若者が専門の修理工らしき人を連れてきたのが午後3時少し前。 「大切な発表」がいよいよ始まるという時間。


 彼らだって、選挙結果の発表が気になるだろうに・・・。
でも、上の階からもつながっているらしいパイプが詰まっているようで、いくら床の水を掻きだしても排水口からはどんどん水が上がってくる状態。
トイレの窓を外し、そこをすり抜けて壁の向こう側(つまり外)へ行き、地上15階の壁に外付されている排水パイプの一部を外して、そこの詰まりを取り除く・・・

 そんなとんでもない作業を行なってくれているうちに、テレビではいよいよ「その瞬間」をむかえようとしており。

 
 なので、リビングの隣のトイレの外壁にへばりついて作業をしている修理工のおじさんにも聞こえるように・・・とボリュームを目一杯上げたのですが。

 
 あまりに長い「前置き」に、途中何度か睡魔に襲われ・・・・
(いわゆる「前置き」=「挨拶」の後に、各候補者の得票数と無効投票数などについて、各地域ごとに順番に延々と発表なさっていたそうです。)
 さすがに途中でボリュームは下げました。

 「いよいよか」と思ってから、いったいどれくらい時間が経っていたのでしょう?

 聞きたいのは、たったひと言「ムルシー」か「シャフィーク」か、それだけなのに。
 

 でも聞いてしまったら、その瞬間から、もしかしたら信じたくもない現実と向き合わなければならないかもしれない。
 ぐぉぉぉぉぉ〜〜〜!!という地響きのようなものが窓の外から聞こえてくるかもしれない。
 日本人学校からは緊急連絡網が回ってくるかもしれない。
 子どもたちにもうまく状況を説明しなければならないだろうし、
 荷物のことも、真剣に考えなければならないかも・・・。


 そう思うと、なんだかもう本当にドキドキして

「早くして!  あ、でもだけど・・・」

 
 自分でも、どうしてこんなに緊張するんだろうと思うくらい、ビビリまくっているのが分かりました。


 このあと数分後、もしかしたら数秒後の「ひと言」で、これまでのカイロ生活にいきなり終止符が打たれるかも



 いや、結果がすでにわかってしまった今となっては、「何をそんなに大袈裟な」と鼻で笑いたくなるような書き方に思えますが、でもやっぱりあの時の気持ちをきちんと思い出そうとすればするほど、恥ずかしいくらいに“切羽詰まった思い”が私の中にはあったことを認めざるをえないのです。


だから、

「ムハンマド・ムルシー」
と、はっきり聞こえた時の、あの時の、体中の力が抜けるような安堵感。


 別に「ムルシーが好きだ」とか「ムルシーを応援していた」とか、
そういうのでは全くないのに、
それでもここまで「ああ・・・・よかった・・・・・。」と思える って、なんだかすごいことのようにも思えました。


 あの時の気持ち・・・


 今の生活を無くしたくない。
 まだここに居たい。
 
 それよりも、全く納得出来ない形で、自分の意志に関係のない力によって、今の生活がパツンと切られてしまうのが許せない。

 私はそう思っていたのだと思います。

 
 そして、今、とりあえず、今はそうならずに済むであろうことが、テレビを通じて発表された。

 とりあえず、今は、よかった。


  
 本当に「とりあえず」です。
だって、天下の(?)ムスリム同胞団からの大統領。(大統領になった時に脱退したと聞いていますが)
国内ではもうお酒が飲めなくなるとか、
リゾート地でも水着で泳ぐことができなくなるとか、
女性はみんな“被りもの”をしなければ・・・?とか
とにかく、今よりも「イスラム化」が進む、ということへの不安・戸惑い・警戒感から、
いろんな憶測が飛び交っています。

 また、新大統領決定の直前に、何やら大統領の権限が弱められるような法の改正が発表されたりしていますし、軍がそう簡単には政権を移譲するとは思えない、という声も多く聞かれます。



 昨年2月にムバラクが失脚したあとのあの喜び、「ついに春がやってきた!我々は勝った!自由を手にした!!」とそれこそ狂喜乱舞した国民たちの気持ちも、あのあと長くは続きませんでした。

「現実」というあまりにも大きな壁に立ちふさがれ、ムバラク時代のほうがまだよかった・・・などという人も増えたと聞いています。


 今回だって、このまま健全な国づくりの階段を一歩一歩上っていけるなどとは誰も思っていないかもしれません。


 でも、私は、どちらかというと「応援したい」です。



 あの時の、あれだけの「安堵感」、「ああ、よかった。」の気持ちを、やすやすと取り消したくはないですから。

 


「エジプト人総ての大統領となる。」と宣言したという ムルシー新大統領。

いや、やっぱり頑張ってほしいです。
本当に。
やっぱり、いい国になってほしいし・・・・。 
 http://bit.ly/N8hFNQより



そんな“運命の日”6月24日はみどりの8回目のお誕生日だったのでした。