やっぱり『やもり通信』

海外生活一区切り。これからは日本の生活メインの内容になりそうだけど、タイトルはやっぱり『やもり通信』・・・で、いいかなっと。

「これが、まさに“イスラム教精神”なのかー・・・・」と、ふと思った日

 
 その施設を訪問したのは今年の1月24日(火)でした。

 在カイロ歴の長い友人Iさんの案内で、友人Sさんと一緒に訪ねたその施設は、カイロ中心部よりも南西方面を走っている「ファイサル通り」から、さらに奥の方へグニグニ・・・っと入って行ったところにありました。途中、地下鉄のファイサル駅のそばを通った辺りまではなんとなくわかったのですが、その後はいったいどの辺を走っているのか・・・私にとっては初めて行くエリアでした。


 去年の夏ごろから延び延びになっていた同施設の訪問。
実は、私たちを案内してくれたIさんにとっても、実際にここを訪れるのはこの日が初めてだったそうです。


 そのIさんを案内してくれたのがエジプト人のWaffa(ワッファ)さん。
ご主人の研究活動の関係で日本に滞在したこともあるワッファさんは、来日中にIさんと知り合い、そこで彼女が支援している「施設」について、Iさんにお話する機会があったそうです。
 

 そのIさんに誘われて連れて行ってもらったSさんと私。
この日の持ち物は
・古着類
・もう使わなくなったおもちゃ類 
など。


「ちょっとくらい破れていても大丈夫。多少壊れていても直して使える物は歓迎されるから。」というIさんの言葉を信じ、小さくなってしまった草太の靴下や、【つくしぐみ むらかみみどり】としっかり名前が書かれている(油性ペンで書いたので消えない)みどりが日本の幼稚園で着ていた制服・・・何故そんなものまでカイロに持ってきているのだ?という疑問は置いておいて・・・なども段ボールに入れて持って行きました。
 それからカタール航空搭乗時にもらったキッズ用グッズ。ちょっとしたノートやミニ色鉛筆など可愛い小物ではありましたが、似たようなものもたくさんあるので子どもたちには内緒でガバッと。でも、子どもたち、未だに気づいた形跡なし。
 その他、秋のバザーに出したものの売れ残ってしまった(つまりどなたにもお買い上げ頂けなかった)物も。

 3月に帰任が決まっているSさんも、お子さんのオモチャをドサッと持ってきていました。


 さて、そのようなものを携えて私たちが訪ねた、ワッファさんが支援しているという施設がこちら。

えー・・・・
すみません。
正式名称を聞いていないばかりか、
例えば、この壁に書いてある文字がちょっとでも読めればここで何らかの解説を書き加えることができるのでしょうけれど(と言うか、本来そうすべきなのでしょうが)
それすらできずに、こうして写真(しかも自分が撮影したものではない・・・)を貼り付けることしかできない私をお許しください。


 とりあえず、ここがどんなところだったかを文と写真で紹介させてください。

 ここにはまず、大勢の子どもたちがいました。
2階部分と3階部分がいわゆる「幼稚園」になっており、
2階では「100%無料」で教育活動が行われていました。
3階は「1ヶ月100エジプト・ポンド(≒1,300円)」を払って教育を受けている子たちがいました。

 2階クラスの教室風景。写真を撮ってもいいかと尋ねたとたん、さっと「厳しく指導している」雰囲気でポーズを取った先生と、それにきちんと応えるかのような姿勢の子ども。でも、ほかの子は、めったに目にすることのない“外国人”の来訪に興味津々のようす。

 こちらも2階クラス。見事に誰もポーズなど取ろうとせず・・・。

 狭い廊下に並んでいるこの子たちは・・・
 「さぁ、手を前にきちんと組んで。」
 そう。お祈りの練習です。こんなに小さい時から「形」と「言葉」をしっかり指導されている様子を見て、「ああ、こうしてこの子たちも“イスラム教徒”になっていくのね。」と思いました。



 こちらは3階。わずかですがきちんと教育費を払っている子どもたちのためのこの空間は、廊下の壁の絵や教室の内装などを見ても下の階とは明らかに違っていたのが印象的でした。

 アート活動・ルームの壁に直接描かれているエジプトの農作業風景。

 向かい側の壁にも直接紙や石が貼りつけられ、「いろいろな乗り物」を楽しむことが出来る空間に。



 さらに上の階へ行くと、6階にはベッドが並んだ部屋がいくつかありました。
 この階は「老人ホーム」と「寄宿舎」が一緒になったようなところでした。

 一歩足を踏み入れるとプーンと消毒薬(漂白剤?)のようなにおいのしたこの部屋には、地方から出てきてカイロで通院生活を送っている母子(お母さんと女の子2人)が寝泊まりしているとのことでした。
 
 地方の病院では診てもらえずカイロまで来ても、通院が長く続く場合の滞在費が馬鹿にならず結局治療を諦めざるを得ないケースもあるそうで、ここではそういう問題を抱えた人に宿泊先を提供しているのだそうです。


 この階で暮らす人達の「サロン」のようになっている部屋で、「私たちを撮ってよ」と、カメラの前でポーズを取る二人。


 奥にはとても広いキッチン。
 

 ここに住んでいる人たちだけではなく、近所から食事をもらいに来る人たちの分も大量に作る必要があるとかで、
こんなに大きなナベ類が、これでもかというほど並んでいました。


 ラマダン(イスラム教の断食月)の時期や、あるいは断食月以外にも断食をしたほうが良いとされている日には毎日1000食は作り、それらは全てここに来た人たちや病院で看護のために詰めているご家族の皆さんたちに配られる・・・とのことでした。


 一日1000食って・・・その材料費は? 
 
 そういえば、カイロの病院に通院中の母子も宿泊代は払う必要がないとか。
  
 ここの運営費は?
 で、働いている人たちへのお給料は??



 それらは全て、この施設のために寄せられた寄付によって賄われている・・・と言われても、にわかには信じられませんでした。


 無料の幼稚園。ひとクラス30人で10クラスあるそうです。
月100エジプト・ポンド(≒1300円)のクラスでも30人×7クラス。
この子たちのランチも、もしかしたら提供されているのでしょうか?(これについては確認できていませんが)

 そうでなくても先生へのお給料とか・・・
 そういえば、他の階には大人のためのコーランの勉強ができる教室や読み書きが習える教室もあったようでした。
 このへんも受講は無料。

 そして11人もの老人が生活する空間。
「無料です」と言われても・・・・。



 経営者の方とちょっとお話ができたときに、Iさんから聞いてもらいました。

「ここの運営費は・・・?」
「皆さんからの喜捨(きしゃ)です。」 ※喜捨:進んで金銭や物品を寺社や困っている人に差し出すこと。<Weblio:http://www.weblio.jp
「でも“寄付金”だけではこれだけの規模の施設を運営するのは難しいのでは?どこかスポンサーになってくれているところとか・・・」
「いえ、全て私や皆さんからの喜捨です。」
「本当に?どこか大きな会社とか・・・あるいはどこかの政党とか。」

 “どこかの政党”・・・はっきりとダイレクトに聞いたわけではありませんでしたが、私は、例えば今話題の【ムスリム同胞団】などからなんらかの援助があるのでは・・・?くらいに思っていたのですが(それほど大規模でしっかりとした印象の施設でした)返って来た答えは

「いいえ。 ですから、何度も言っているように皆さんからの喜捨だけです。」


 逆に「どうしてそんなにスポンサーが必要だと思うのですか?」とでも言いた気な彼女たちには

 これだけの規模の施設が、行政の補助も受けず、資金協力をしてくれるスポーンサーも持たず、すべて個人レベルの寄付金のみによって長期にわたって運営され続けているなんて信じられない、という私の思いが、理解できていないようすでした。


 喜捨・・・
確かに聞いたことがあります。
イスラム教の教えの中に「困っている人には喜んで分け与えなさい」というようなものがあり、イスラムの社会では、富める者は貧しい物に分け与えるのが当たり前、という考えがあるのだという遠い昔に習った記憶。

 

《ここでちょっと復習・・・というかお勉強》
 イスラム教の教義の中にある六信五行(「信じるべき6つのこと」と「行うべき5つのこと」)

・六信・・・神(アッラー)/天使(マラーイカ)/啓典(クトゥブ)/使徒(ルスル)/来世(アーヒラ)/定命(カダル)

・五行・・・信仰告白(シャハーダ)/礼拝(サラー)/喜捨(ザカート)/断食(サウム)/巡礼(ハッジ)
                             <参考:http://bit.ly/sx5rEE


 「五行」のひとつとして挙げられている“喜捨”『収入の一部を困窮者に施すこと』と説明されており<http://bit.ly/aXcAz2>、私たちが考えるところの“募金”や“寄付金”とはまた違ったレベルのもので、“(当然の)義務”としてとらえられていることがわかります。

【もともとは収入にあわせて集められる「宗教税」のこと】と説明しているサイトもありました。http://www.ktc-johnny.com/islamic01.html


 でも、それにしたって・・・自分の限られた財産をみんながみんな「義務だから」と言って何の抵抗もなくバッサバッサと差し出してくれるものなのでしょうか?


 でも、実際、この施設はそういうシステムで成り立っているようだし・・・。

 私は単純に「イスラムの奥深さ」感じずにはいられませんでした。


 それでも、やはり運営(経営状態・・・という表現はふさわしくないんでしょうけど、この場合)は決して楽ではない、とのこと。

 私たちがもう使わなくなったもの、帰国時に友達に譲っていきたいけど、あまりにも汚れていて・・・と、躊躇してしまうようなもの、バザーやガレージセールに出すのもちょっと・・・というような物でも、ここでは私たちが思っている以上に有効活用してくれる、とIさんは言っていました。

 でもでも、運営側の人たちにとって今一番必要としているのは、やはり「お金」だそうで・・・。
支援内容については模索しながらも今後も長く続けていきたい、というIさんの、微力ながらお手伝いが出来れば・・・と思っています。
 

 尚、この施設は今現在も増築(改築?)中で、最上階の7階は「ガン治療」のために地方からカイロに来ている人たちのための部屋を作る予定だそうですし、

 

 また、別の場所にはアルツハイマー病の人たちのための施設を建設予定だとか。
お父さんの代から始められたこの施設をしっかりと守っている「マダム・ハナァ」という女性は、このへんでは有名人らしく、Sさんのドライバーさんもお名前を知っていたそうです。

 いや、本当にすごいです。



 ということで、カイロ在住の皆さまには、このような個人の善意で支えられている施設が身近にあることを知っていただき、帰国前あるいは日常的に出てくる「不用品」の行き先も“全てメイドさんに”という以外の選択肢があることをちらりと頭の片隅に置いておいていただければ・・・と思い、長々と書いてしまいました。

 より詳細な情報については、直接Iさんに聞いていただいたほうがいいかと思いますが、ご連絡いただければIさんにお繋ぎしますので、よろしくお願いいたします。


<写真提供:進藤京子さん>