やっぱり『やもり通信』

海外生活一区切り。これからは日本の生活メインの内容になりそうだけど、タイトルはやっぱり『やもり通信』・・・で、いいかなっと。

その時の合言葉は「サムに会いに行こう❣」

 さて、2018年のイースター休みにカナディアンロッキーの山間にある『バンフ・スプリングス・ホテル』での滞在を実現させた我が家ですが、この時の私たちの合言葉は、実は

「パパの夢を叶えに行こう!」

 ではなくて


「サムに会いに行こう!」でした。



『バンフ・スプリングス・ホテル』のサム


 知ってる人は知っている・・・かも、ですが、

 30年前にここで働いていた夫も、結局はついに出会うチャンスはなかったそうです。

 

 とても仕事熱心なホテルマンだったサム

 いつもお客様がこのホテルで快適に過ごせるよう、一生懸命働いていたのでしょう。


 不慮の事故で亡くなってからも、何か手伝いを必要としているようなお客様 〜例えば部屋の鍵が開かなくて困っているとか〜 を見かけると、どこからともなくやってきて、サッとそのトラブルに対処してくれるそうです。

 そして、なんともありがたいタイミングで助けてくれたサムにお客様がチップを渡そうとすると


 サムは、スーーーーっと消えてしまうのだそうです。


 あまりにも自然な対応をしてくれるため、チップを渡そうと思った時に消えてしまうまでは、お客様も全く気づかない・・・サムが実はもう何年も前に亡くなっている人だということに・・・という、この話。

 実はかなり有名なようで、ネットでホテル名を検索しただけでこの手の話にももれなくヒットします。
確かにこのホテルには、そういう話がとっても似合いそうな場所が驚くほどあちこちにありました・・・



 もちろん我が家のメンバー(私と子どもたち)にとっては
「昔、パパが働いていたことのあるホテルでのお話」という形で耳にしていたことなので、サムがこんなにも“有名人”だなんて、全く知らなかったのですが。


 ネット情報をあれこれ見てしまうとなんとなく引いてしまう、というか、そういうミーハー・・・いや、芸能ゴシップ的な・・? 空気に包まれてしまいますが、そこからのスタートではなかった私は、

「せっかくスプリングス・ホテルに行くのなら、ぜひサムにも会ってみたい。」と、かなり本気で思っていました。

 だって、なんというか

“怖い” とか、そういうふうに思う以前に、“ホテル愛”・・??

決して「うらめしや〜」とか「怨念」とか、

サムは、そういうものとは無縁の存在にしか私には思えなかったので。


なので、

 「もしかしたら、普通のホテルマンに混じっているかもしれないから、スタッフが名札つけていたら一応ちゃんと名前のチェックをしなきゃね。」

などと、自分でもどこまで本気かわからないことを子どもたちに言ったりしていました。


 
 そして、2泊の滞在。


 最初の夜に食事をしたドイツ系のレストランでは、かなり年配の男性がウェイターをしていました。私たちのテーブルのオーダーを取り、食事を運んできてくれたその男性。仕事自体にはとても慣れているのが分かりましたが、もしかしたら80歳は超えている?というふうにも見えました。

このくらいの年齢でレストランのウェイターなんて珍しいんじゃない? と思えるくらい。


 でしたが、もちろん(?)胸にある名前は「サム」ではなく。

 でも夫はちゃっかり聞いていました。その年配のウェイターさんに。


「・・・・ところで、サムってご存知ですか?」

 
 さすが年配の従業員だけあって、ちゃんと「サム」のことは知っていました。

 ただし、彼もまだ「サム」には会ったことがないそうです。

 やはり、そう簡単に会えるわけではなさそう・・・・

 っていうか、そこまで本気で会えるとは、やっぱり思ってはいなかったわけだし。


 
 翌日。

 午後からは少し雪の予報が出ていましたが、気温も低すぎず(マイナス1桁)良い天気。

 まさか一日ずっとホテルの中で「サム探し」・・・と、そこまで気合いは入っていなかったので、ホテルから一番近い山にスキーをしに行くことにしました。

 と、その前にスキーをレンタルせねば。

 カナダに来てスケートは買ったけど(私とみどりだけだけど)、スキーまではまだ揃えていなかったので、朝食後、ホテルに併設されているレンタルショップへ。


 4人分の一式をサイズチェックしながら揃えていくにはそれなりに時間がかかりましたが、スタッフさんが手際よくいろいろ出してきてくれて・・・・


 と、夫が小声で

「名前、見た?」

 
 履き慣れないスキー靴のサイズ合わせに苦戦していた私は、その時、初めて目の前にいる若いスタッフさんの名札を見ました。

なんと・・・・


[SAM]



 まさか、レンタルショップで出会えるとは!

 と、[SAM]
という名前を見ただけで急にテンションが上ってしまった自分が妙に可笑しかった・・・。


 そして、

 とりあえず[SAM]
という名前の人には会えたぞ、ということで、何か一つ大きな達成感すら得られた気もしました。


 でも実は、その彼は例の“サム”のことを知らなかったそうです。

 「まだ新しい人みたい」と、夫は言っていました。


 最近は、働き始めて間もない若い人たちの間では、むかーしむかしから伝わるお話はあまり浸透しなくなっているのかもしれません。

 あるいは本人が[SAM]という名前なだけに、周りの人も敢えてあれこれ教えたりはしないのかも・・・とも思ったり。


 そんなこんなで無事スキー一式を[SAM]の助けを得ながらレンタルした私たちは、その日はホテルから車で20分ほどのところにある標高2514mのマウント・ノーケイ(Mount Norquay)で、この冬初めてのスキーを楽しんだのでした。

 

 スキーもできたし、[SAM]にも会えたし・・・ま、「サム違い」ではあったけど、
このくらいがちょうど良かったかも(笑)


 こうして無事『バンフ・スプリングス・ホテル』の宿泊客を経験した私たちは、あとは確実に近づいている春を待つばかり・・・

 と思いながらエドモントンに戻ってきました。


そして、その数日後に再び−20℃まで気温が下がるという驚きの体験をしながら、


それでも、確実に、絶対に近づいているはずの春を、今日もちょっとずつ感じながら過ごしています。